シーカヤック自作バイブル刊行

  直進安定性と操縦安定性の相反則

 「あちらを立てれば、こちらがたたず、こちらを立てれば、あちらが立たず」と互いに反することを
相反則といいます。

シーカヤックにはこの相反則が当てはまります、それは
直進安定性操縦安定性の関係が正にそうです。

つまり直進性の良いカヤックは曲がりずらく、逆に曲がり易いカヤックは直進安定性が劣ると言うものです。

これは事実です、パドルで漕ぐたびに頭(バウ)をスティービーワンダーの如く左右に振ってしまう、直進性の劣るカヤックもあれば、矢の如く直進性の良いカヤックもあります、しかしこの手のカヤックは片舷のみをいくら漕ごうが曲がらず、揚句の果てには護岸に激突という笑えないケースもあります。
魅力的なラダーシステム

そこでこの両立しない両雄を補正する為に
ラダーが登場します。

このラダーはいずれのタイプのカヤックにも効果を発揮します。

直進性の良好なカヤックについては
進路変更に価値を見出し、曲がり易いカヤックに関しては直進性をキープする為に効果を発揮します。

しかし一見有効的なラダーにも問題が無い訳ではありません。

ラダー自体が抵抗体であることです、ラダーは水流に対して抵抗を与えて進行方向を変えます、これによるエネルギーロスは計り知れないものがあります、実際にラダーブレード単体で水を掻いてみれば一目瞭然です。

構造が案外複雑、ほとんどのカヤックは両足でペダルを操作し、ワイヤーがラダーシステムに連動しています、海上でいずれかにトラブルが生じてしまうと対処ができません、トラブルが次のトラブルを醸し出してしまいます。

知らぬ間に海藻や遺棄されたポリ袋等の浮遊物を引っ掛けてしまい、抵抗の上に抵抗を重ねてしまう事が有ります。

ラダーのキックアップを忘れたまま浅瀬に進入してしまったり、ランチィングしてしまいラダーシステムを壊してしまう事があります、最悪の場合はラダーを取り付けたスターンが損傷することもあります。

市販のラダーシステムはかなり高価であり、その重量も馬鹿になりません、そしてその重量がカヤック末端のスターンにあるのが気に入りません、スターンヘビーの元凶そのものです。

かように一見合理的に見えるラダーシステムは
抵抗体であり、トラブルメーカーそして重量オーバーと余り薦められる代物では有りません。

  直進安定性と操縦安定性の両立

シングルチャイン構造
スムーズなターンの軌跡
 それではラダー無しで操縦安定性が良好で、且つ矢のような直進性を備えた、そんな都合の良いシーカヤックが有るでしょうか?

有ります!今回刊行しましたシーカヤック自作バイブルで作るシングルチャイン構造カヤックが正にそれです。

このシングルチャインカヤックは
直進安定性操縦安定性の両雄が高い次元で並び立っています。

何故ならば、このシングルチャインカヤックには明確な
エッジが3本、バウからスターンまで走っています。

ボトムの
キールラインが1本、左右のチャインラインが2本、計3本です。

この各エッジが水をしっかりキャッチしますので見事な
直進性能を発揮します。

そして自転車やバイクの様にカヤックを曲がる方向に傾けると、
チャインエッジが舵の役目を果たしカヤックはスムーズに、且つ見事にカーブをトレースします。

そうですシーカヤックシングルチャインに限るのです。

  浮力と安定性

ラウンドボトムとの浮力差比較
 このシングルチャインカヤックにはまだまだ重要なメリットがあります。

良好な直進安定性と操縦安定性を造り出すキールとチャインが必要にして十分以上の
浮力復元力を更に造り出します。

シングルチャインボトムラウンドボトムのハル(船体)断面を比較すれば一目瞭然です(左図参照)。

ハル断面の単純比較でもこれだけの
浮力差があります、この浮力差がバウからスターンまで3本も走っているのですから不動の安定性復元力が得られるのです。

この十分な浮力を活かせば、全幅を狭める事が可能になります、その結果安定性を犠牲にする事無く
スピード性能をアップできるのです。

安定性は
安全性に直接結びつき、スピード性能は二次的安全性に繋がるのです。
 
シングルチャイン構造は以上の通り直進性操縦性安定性復元力スピード性能と本来、相反する要素の全てが見事に融合しているのです。

  市販のカヤック

市販のラウンドボトムカヤック
 それではこれ程までに高性能なポテンシャルを持つシングルチャイン艇が何故市販のカヤックには少ないのでしょうか?

それは
自明の理です、市販のカヤックのほとんどはFRP製です。
 
FRP構造は
ガラスクロス樹脂とのコンポジット(複合)です、無論ガラスクロス自体は全く形成能力は有りません、樹脂と一体になってはじめて効果を発揮します。

このFRP構造は
フラット面の成型に弱点を露呈してしまいます、フラット面の強度を上げる為には積層を厚くしなければなりません、結果重量オーバーになってしまうのです。

従ってFRP構造は
曲面の組合わせによってのみメリットが生じるのです。

  高性能シーカヤックの自作

合板製シーカヤック
 それでは高性能なシングルチャインカヤックの建造に最適なマテリアルは何かと言えば、それは正に合板(プライウッド)なのです。

この合板は
平面の強度にこそ利点があり、これに曲面エポキシ樹脂を組合わせることによって鬼に金棒となるのです。

高性能なシングルチャインのメリットに
安価軽量そして自作可能と言う魅力が更に加わりました。

シーカヤックは合板製シングルチャインに限るのです

「どうせ自作艇」、「所詮自作艇」などとは言わせません、安価な自作艇が市販艇をはるかに凌ぐ
高性能シーカヤックになるのです。

そればかりか手をかければ立派な
工芸品にもなります。

  自作マニュアル

シーカヤック製作マニュアル
  この度、舵社からシーカヤック自作マニュアルが出版されました。

シーカヤック自作バイブル 妙義カヤック工房 八木牧夫著

初めてシーカヤックの自作を志した
ビギナーにも理解し易いように写真を豊富に掲載しています。

フリープラン
を採用していますのでデザイナーはあなた自身です、全長、全幅、全高の設定が自由に行え、安定性重視からレーサーまでカバーできます、無論女性用、子供用とその守備範囲の広いマニュアルになっています。

作る楽しみ、乗る楽しみを心ゆくまでご堪能ください。