いつか脇街道

 街道ウォークの醍醐味は正に「達成感」と「充実感」にあります。

 それは丸一日歩き通した当日にもあり、各街道の終着点にたどり着いた時はまたひとしおです。

 それは自分自身の中に街道とかかわった歴史がすでに出来あがっているからではないでしょうか。

日本橋は五街道の起点

 しかし「街道ウォーク」は往復でワンセットです、東海道であれば日本橋を出立し、京の三条大橋に無事到着したら、いつかは京の三条大橋から江戸日本橋に向かいましょう。

 風景は180度変わります、そしてその時あなた自身は優秀な「片道の経験者」なのです、迷道してしまい不通過してしまった街道をトレースし直すこともできます。

 また「片道の経験者」であるあなたは体力的にもかなり向上しているはずです、一日20kmの行程であったものが30km、40kmとこなせるようになっているはずです。

 そして往路では割愛してしまった旧所名跡等をフォローしたりとメリットははかりしれません。


  出会い(東海道袋井宿の主)

 ある年、単独で東海道府中宿から舞坂宿まで二泊三日で歩きました、この時はアスファルトから陽炎が立つほどの真夏日ウォークでした。

 島田宿で一泊し、二泊目は袋井宿です、若干複雑な枡形を通過しますと袋井宿に入ります。

 袋井宿の起点は「
静橋」と定めていました、ところが宿内に入ったものの中々起点の橋が出てきません。

 たまたまランニングシャツ姿のオヤジさんが街道にいましたので「
しず橋」はまだですかと問うとアァー「しずか橋」ネ、「すぐそこだよ!」と教えてくれました。

 オヤジさんが「東海道を歩いているんだろう、チョット寄ってゆきなョ」と満面の笑顔で誘ってくれました。

イエ、チョット先を急いでますんで」これでは笹沢佐保の「木枯紋次郎」のセリフですネ、「いいから寄りなよ」の言葉に促されて寄ったところ、そこは街道筋に面してクリーニング店を営むAさん宅でした。

 店内に入ると驚きです、ご本業のクリーニングの衣類を受け渡すカウンターの脇には東海道グッズが所狭しと飾られていました。

 それこそ東海道に関するキーホルダーから文献までです、Aさんはすでに奥さんと東海道を踏破していたのです、まるで同志扱いの歓待をして頂きました。

 土産に袋井宿のキーホルダーや宿案内の巻物、マップ等を頂き、挙句のはてには袋井駅前のホテルも予約していただきました。

 翌早朝出立時チェックカウンターにゆくと「道中安全を祈る」とのメッセージまで頂きました。

 それから一年後、仲間と再度当宿を訪れた際、街道筋に面した「たたみや旅館」に宿をとり、厚かましくもAさん宅に伺うと笑顔で迎えていただき、仲間全員に記念の品々を頂きました。


  仇討ち


 話は前後上下(右往左往)しますが、初めて袋井宿に投宿した際、Aさんにホテルを予約して頂き、投宿後、街道ウォークの最大の楽しみである、一杯に単独で出かけ、駅前の「焼き鳥屋」さんに入りました。

 この時初めて
焼酎の緑茶割りを味わい、流石「駿河の國は茶の香り」と感じいりました。

 さあいよいよ焼き鳥をオーダーしようとメニューを眺め、腹づもりを定めて、一気に「カシラ」「ネギマ」「つくね」砂肝」等々を注文しました。

 すると「お客さん、そんなに食べれます、うちは3本セットのオーダーしか受けませんよ」とのたまう、「一人旅なもんで、各一本づつになりませんか」と哀願するも、暖簾に腕押し、ケンモホロホロ、「焼き鳥」は諦めました。

 そこで今回仲間と語らい「討ち入り」の覚悟で再挑戦、リベンジです、肩で風を切って店内に突入、目で殺気を飛ばすと、笑顔で「いらっしゃい、その節はどうも」、これはいけません腰砕けです。

 「美味かったから、仲間と来たよ」焼き鳥の味は名人級でした。

 腹ごしらえも済ませ、例により酒屋で焼酎の一升瓶を購入して「たたみや旅館」に戻る、女将さんの計らいで四人で16畳部屋です、粋なもんですね。


  出会い(東海道袋井宿の主)弐

 全員風呂に入り、さあ宴会と車座になると、突然A氏の登場です。

 氏曰く「何を隠そう、袋井は
メロンが名産なんだよ」とお持ちになった高級メロンを真半分に断ち割り、種の部分を大胆にも捨て去り、これも手ずからかの仏産高級ブランデーをくり貫いたメロンに注ぎ込む、これをスプーンで崩しながらすすり込む、ブランデーが減るとまた注ぎ込む、なんと贅沢な味。

 そして肴はA氏の街道話し、あっという間にブランデー一本あけてしまいました、このメロン&ブランデーのタッグは最強でかなり効きます。

 Aさんがお帰りになっても妙に気合が入り、焼酎もあけてしまい、翌日は「二日酔いウォーク」です。

 後日東海道に関するテレビを観ていますと、Aさんがテレビ出演しているでは有りませんか、この人は有名人なんだ。

 東海道の
袋井宿は江戸日本橋から数えて二十七番目の宿、京三条大橋から数えても同じく二十七番目の宿。

 そのような訳から袋井宿は「
東海道のど真中」と謂われています、その縁から宿内に「どまんなか茶屋」が新たに設けられ、そのくだりをAさんは立派に説明しておられました、お見それしました。

※ 「どまん中茶屋」 袋井宿江戸口に設置された公営の無料休憩所 広重画「袋井出茶ノ図」をモチーフにして建てられた茶屋は地元のボランティアの方々が運営しています。


  フィールドの広がり

 私自身は東海道を一往複半しています、おかげさまでマップ無しで歩けるようになりました。

 是非、ご一党様方も時間を掛け各街道をワンセットづつ踏破してみたらいかがでしょうか。

 東海道中山道甲州道中日光道中奥州道中五街道を各往復したら大層な距離になります。

 もし豪傑や猛者の方々が五街道全部往復踏破したらその次はどこに行く、とのご心配がありましたらご安心下さい、脇街道マップを用意してあります、「脇街道ウォーク」にご利用下さい。

 当然これらの脇街道は五街道に関連する脇往還です。
        

 姫街道(本坂通)
                   伊勢街道(伊勢参宮道、伊勢別街道)
 善光寺街道(善光寺西街道)
 日光例幣使道
 日光壬生道
 日光御成道

 どうですかフィールドには不自由しませんネ、ビューッと行きましょう。